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会長あいさつ「教職大学院の一層の魅力化を」

1.教職大学院拡充の意義

 教職大学院は、中央教育審議会の答申等において教員養成高度化の中核機関としてその成果が高く評価されており、設置大学数と入学定員数を拡大する政策がとられてきました。制度創設から10年を経た現在、ほぼすべての都道府県に設置されています。また、修士課程の教科教育分野等の学生定員を移行して規模をかなり大きくした教職大学院や、修士課程を廃して教育系大学院を教職大学院に一本化した大学がいくつも誕生しています。
 こうした拡充によって、理論と実践の往還・融合した高度な教員養成教育を受ける機会が、全国においてより多くの現職教員と教員志望者に対して提供されることとなりました。教員養成の高度化が進展したことになり、大きな意味があります。

2.入学定員充足の厳しい状況

 しかしながら、文部科学省の令和元年度の教職大学院入学状況調査において、多くの教職大学院の入学者数が定員を下回っていることが判明しました(54大学中34大学(約63%)が定員割れ)。とくに修士課程の定員を移して大規模化した教職大学院と首都圏の私立教職大学院において定員充足率が低くなっています。明らかに、現状では、入学定員と入学ニーズに大きな開きがあるといわざるを得ません。政策的な評価と期待は高いにもかかわらず、何故、入学者が増えないのでしょうか。
 全国的に教員志望者が減っていることが、その根本的要因であることはいうまでもありません。教職員の働き方改革が国や教育委員会で取り組まれていますが、我々もこれまで以上に学部生等に教職の魅力を伝えることが必要です。

3.入学者・修了者への具体のインセンティブを

 もう一つ根本的要因があると思います。教職大学院制度創設以来の念願である「入学者・修了者へのインセンティブ」の具現化が進んでいないことです。教職大学院での学びの時間や費用などのコストに見合う「見返り」が依然として十分には用意されておりません。教員採用試験合格者の採用猶予や一部の自治体での初任者研修の一部免除などは行われていますが、学部卒業者をそれ程惹きつけるものにはなっておりません。現職教員への教育委員会による経済的支援は様々であり、その対象教員数も限られています。
 もちろん、具体のインセンティブがなくても、教職大学院の学びを志向する一定数の学部生と現職教員は確実におります。しかし、それだけでは、教員の力量の「底上げ」的な機能をも持つようになったと考えられる、大幅に増員された現在の定員規模を満たすことはむずかしいといわざるを得ません。
 なかなかハードルは高いと思いますが、各教職大学院において地元教育委員会や首長等に対する引き続きの粘り強い働きかけをお願いします。協会としても昨年12月に、国として、具体のインセンティブ施策を講じていただくように文部科学省に改めて要望しました(参考資料:「教職大学院振興に関する要望書」)。

4.教職大学院の一層の魅力化を

 加えて、教職大学院の魅力を高めることが必要です。教職大学院の現在の取り組みや制度が、学校教育に関する高度で実践的な学びを志向する学部生、現職教員や派遣元の教育委員会のニーズにマッチするものとなっているのか検証して、そのエビデンスをもとに改善の措置を講ずる努力を不断にするべきです。現状では、たとえば、次のようなことの検討が必要と考えます。

○教員の生涯の学びにおいて、教職大学院をその中核に位置づけることはできないか。文部科学省はラーニングポイント制を積極導入する方針を打ち出しており、すでにいくつかの教職大学院は教育委員会等の現職研修受講を教職大学院の単位として認める仕組みを構築しています。さらに、教職大学院修了によって中堅教諭等資質向上研修が免除されることや、管理職登用への教職大学院修了の必須化が国の仕組みとして検討されるべきと考えます。

○教職大学院の学びのスタイルを多様化すべきです。例えば、オンライン教材、訪問授業、遠隔授業、夜間クラス、土日開講などの一層の活用です。こうしたいわばブレンディッド・ラーニングは、とくに社会人の学びにおいて有用ですし、働き方改革の観点からも現職教員のニーズは高いと思います。先行している教職大学院もあるでしょうから、そこでの効果や課題が共有できるのではないでしょうか。

○各教職大学院の一層の特色化が図られるべきです。大学院レベルの高度な学びを求める学部生や現職教員は、ジェネラリストとしての教員の力量向上に加えて、特定分野の高い専門的能力の習得も求めているのではないでしょうか。こうしたニーズに応えるカリキュラムを各教職大学院は準備してきていると思いますが、より多くの人々を惹きつけるために、改めてニーズ調査等を行って検証してみるべきではないでしょうか。とくに、より広範囲から学生を集めなければならない大規模教職大学院においてその必要性が高いと思います。共通科目の扱いが改めて焦点となります。

○チーム学校の推進が求められており、養成対象を教諭から拡大して多様な「教育関係職」に広げるべきではないでしょうか。学校事務職、栄養教諭 養護教諭、教育行政職(指導主事、教育長)、外国人留学生、ICT教育アドバイザーなどです。すでにこうした職種の人材を養成対象としている教職大学院もあり、既成事実化している面がありますが、制度として本来の養成対象とすることを検討するべきではないでしょうか。上記の特色化につながることにもなります。

○Society 5.0 を見据えて学校教育と教員の在り方は大きく変化します。教員の養成教育と現職研修において、未来に必要となる能力の育成、たとえばSTEAMやEdTechなどの能力習得に対応することが急務となっています。教職大学院はこれに先導的に取り組まなければなりません。そのためには、先端的な研究開発力と「先端的実習校」が必須となります。現状、これがどの程度できているのか。今後どうすればできるようになるのか。

 入学定員割れという「危機」を、むしろ教職大学院の未来を開く好機ととらえるべきです。そのために、教職大学院の魅力をより高める方策や仕組みの見直しについて、公の政策形成の場で早急に検討を始めるべきと考えます。その際、それぞれの見直し事項についてのエビデンスを用意することが不可欠であることはいうまでもありません。この趣旨の要望も併せて、昨年12月に文部科学省に行いました(参考資料:「教職大学院制度の見直し」)。

2020年3月9日       
日本教職大学院協会     
会長 加治佐 哲也   

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